お別れの日
今日は最後の日。
そして曇り。初日の大雨の日のことを思い出した。
なぜか、朝食前に日本の職場でのイヤなことを急に思い出し、戻らなければならないことがものすごく苦痛になってきた。
オフィスに着くと、「おはよー」と中国系女子。最近、彼女は日本語を話すことにはまっている。
ぽっちゃりさんは大好きな緑色のセーターを着こなしている。
「日本に送る荷物は全部持ってきた?」ふたりに質問され、「持ってきたよ」と書類の束をみせ、箱に詰める。
10時前になると、ケーキおばあがやってきた。今日の私のためのスペシャルなケーキはチョコレートケーキの中にリンゴが入っているケーキだという。
11時までかかって作ったらしい。私が手裏剣を折っている間に、おばあはケーキを焼いてくれていたのである。
それから、真っ赤でおいしそうな大量のイチゴ。サンドイッチ、スナックなど次々と用意されていく。
ちょうどオフィスに来ていた中国人留学生が、「クリスマスパーティー?」と聞くので「違うよ」というと、「じゃあ何?」と聞くから、「私の最後の日だから」というと「フェアウェルパーティーだね」と納得していた。
パーティーのお礼に日本から持って来ていた笛を吹いても良いか?とぽっちゃりさんに聞くと、「もちろんよ。今のうちに練習しなさい」というので、吹いてみた。まあまあである。
さて、10時になるとどこからともなく人が集まり、いつの間にか好きな物を食べ始めた。もう始まりですか?
それから、私がインタビューした人たちにぽっちゃりさんがメールを送ってくれていたので、3名ほどわざわざ来てくれた。
ありがとうと彼らに言うと、みんな口をそろえて「わからないことがあったら、日本からメールしなさいよ。あなたに会えて本当によかった」と言ってくれる。
ケーキおばあは、カメラおばあに変身し、持参のカメラで写真を撮りまくってくれる。「はい、そこ並んで。あんたはでかいんだから、後ろへ行きなさい!笑って」といった調子で、私に「次はあそこに行きなさい」「次はあそこ」と細かく指示をしてくれる。
「私もカメラを持ってきてるから、私のカメラで撮って」と言うと、「あなたのパーティーでしょ?私が撮るわよ!」と言ってひかない。
しかし、メモリーオーバー。
私のカメラで撮ることとなった。
そこへ、ぽっちゃりさんが、「みなさん、お静かに!」の一声。
プレゼントとカードを渡してくれた。
そこで一言なんか言おうかというときに、「これから日本の笛の演奏をしてくれます!」そして拍手。
音の調節をして、吹き始めた。結果はまあそこそこ。
しかし、みんな喜んでくれたようだ。「あなたの演奏とても良かったわ」とたくさんの人が言ってくれた。
去年から練習していて良かった。芸は身を助けるとはこのことである。
それから、いつの間にか人が減って、この前のお誕生会のメンバーが残っていた。
中国系不思議ちゃんは、今日もすすんで皿洗い。「私はこれが楽しいから気にしないで!」
片づけを手伝っていると、ケーキおばあが、「あんたは主役なんだから、ここでお茶でも飲んでいなさい!」とのこと。
余ったイチゴやスナックをミルクティーと一緒にいただきながら、みんなを眺めていた。
おばあとぽっちゃりさんと中国系女子だけになったところで、日本から持ってきていた和柄ハンカチとカードをそれぞれに。
ぽっちゃりさんは、「まあ、きれい。鳥がついているわ。天使は鳥が好きだから喜ぶわ」と言ってぽっちゃりした体で抱きしめてくれた。
おばあに渡すと(おばあは朝いちばんで、私にプレゼントをくれていた。しかも結構重い。荷物と一緒に送れば?という中国系女子の意見に「だめ!」と全否定。荷物が減ったと思ったらまた同じになったのだ)「まあ、なんてばかな子なの?」といいながら、抱きしめてくれた。
それから、中国系女子に。「まあ、ありがとう。日本に帰っても連絡してね」
不思議なことだが、彼女にはまた絶対会えるという確信がある。彼女もきっとそうなのだろう。だからお互い結構笑っていられる。
それから、各チームに一枚のカードと私の力作の手裏剣を人数分配りに行った。
「あなたはなんて親切なの!」とみんなに驚かれた。
はかないアグネスは涙ぐんでいた。
それから、ぽっちゃりギャルと記念撮影。「また連絡してね!」もちろんである。
英国美人にも挨拶し、日本で2年間英会話を教えていた彼女に英語習得の秘訣を聞いた。「とにかく練習することしかないわ。でも、日本では日本語しかしゃべらないから難しいとは思うけど。できるだけ英語を聞くようにして。エクスチェンジパートナーを持つといいと思うわ!」
エクスチェンジパートナーとは、たしか私が日本語を教える代わりに相手に英語を教えてもらうというやつである。
つまり、しゃべらないことには上手くならないということだ。
お腹がいっぱいなので、サンドイッチだけ買ってきてオフィスで食べた。
それから、最高のチームのところへ。フレンチ美人は足を骨折していたが松葉杖をついてパーティーにも来てくれた。
リーダーはカードを渡すと涙ぐんだ。一緒に泣いてしまいそうだったので、話題を変えた。
すると、彼女の涙もおさまり、少し話した。
「最初に日本人が来るって聞いて私は嬉しかったの。私たちは日本語が読める人を必要としていたから。あなたと働くことができて本当によかったわ」
「こちらこそ、あなた達と働くことが出来てよかったよ。いつも誉めてくれたし」
「当然よ。あなたはハードワーカーだったもの。もし何かわからないことがあったらメールを送ってね」
それから心優しいコナン君にもさよならを言い、フレンチ美人にもさよならを言った。
彼らのオフィスを出ると、雨が降り始めていた。
走って戻ると、もう疲れていた。今日はもう帰ろうと決めて、荷物の準備をしていると、ぽっちゃりさんが、「これは私から」とオリーブオイルのオーガニックシャンプー、リップのセットをくれた。「リップを塗ってみなさい」というので、塗ると美味しい。「美味しいね」と言うと、「これは食べ物じゃないわよ!」と真面目に言われた。
ぽっちゃりさんにハグとキスをされ、お互い泣きそうになったが、こらえた。何しろ私は一度泣き出したらしゃっくりみたいのがでて、非常にやっかいなのだ。
そして、中国系女子ともハグ。「連絡してね」と彼女はいつものように微笑んだ。
「じゃあ、またね!」とみんなに手を振り、オフィスをでて歩いていると、泣けてきた。何回か我慢していたものが一人になって解き放たれたのだ。
泣けるほど別れが辛いなんて、私はなんと幸せなんだろうと思いながら。
ぽっちゃりさんがみんなの前で渡してくれたカードには、全員の寄せ書きがあった。それを見たときも泣きそうになった。
私が気づかないようにこっそりカードを回していたようだ。
それから、何人もの人たちが、「またすぐに帰ってきなさい!」「あなたはすぐに帰ってくるに違いないわ!」と言ってくれたことを思い出したら、また泣けた。
ニュージーランドにはいつも泣かされる。3度とも私は泣いた。別れの悲しさ、親切にしてくれたことの嬉しさ。いつも同じ涙である。
余談であるが、ケーキおばあのプレゼントもオーガニック化粧品であった。
どういうこと?もっとおしゃれになれってこと?
二人ともが別々のところで同じことを考えていたってことは、私は女としては相当ダメダメだったようである。
プレゼントを開けたら、かなり笑えた。
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